週刊誌を拾う

 私が週刊誌を拾うようになったのは、1995年の2月からだ。あの年の冬は個人的に混乱した状況で、仕事にも恋愛にも身が入らなかった。そんなときに私の家の隣に引っ越してきたのが、カズオさんだった。カズオさんは100人に聞いたら100人が知っていると答えるような超有名企業に勤めており、いつもパリッとしたスーツに身を包んでいたが、なぜかボロボロの週刊誌を持って歩いていることが多くて私は疑問に思ったものだ。
 そんなある日、たまたまカズオさんが留守のときに宅急便の荷物を預かっていた私は、カズオさんの家のドアをノックした。カズオさんは心よく迎え入れてくれて、お茶を出してくれた。カズオさんの部屋は一流企業に勤めているとは思えないほど乱雑に散らかっており、その全てが雑誌だった。私がどうしてこんなに雑誌ばかりあるのかと聞くと、カズオさんは全て拾った雑誌だと答えた。私が不思議そうな顔をしているのを見ると、カズオさんは「僕がどうしてこんな汚い雑誌ばかり集めているのかって思っているのだろう」と聞いてきた。その通りだったので私が「そうです」と答えると、カズオさんはこう説明してくれた。
「僕は昔、拾った週刊誌に命を救われたんだ。記事の詳細は割愛するけれど、あの頃未曾有の危機が僕の住んでいる地域に起こっていて、テレビや新聞は嘘ばかり言っていた。僕はどうしていいか信じられなくって毎日が不安だった。そんなときに拾った週刊誌に、その後の僕の人生を変えるような記事が書かれていた。僕はどう行動すればいいか、全てそのとき見えたんだ。今もこうして名前の売れている企業に入って普通の暮らしを送ることができているけど、これは全てあのときの週刊誌のおかげなんだよ。だから僕はそれ以来、拾った週刊誌を見ると、ほっておけなくなってしまう。それがどんなひどい内容だとしても、条件反射的に拾ってしまうんだ。そしてそれを捨てることができなくなる。だから、部屋は雑誌だらけなんだよ」
 私はそれを聞いてすっかり感銘を受けてしまった。私の人生もその頃、非常に行き詰っていたため、カズオさんと同じように拾った週刊誌が現状を打開してくれるのではないかと思ってしまったのだ。結局、私は転勤などの都合でカズオさんの隣からは引っ越してしまったが、その日以来、今に至るまで毎日のように週刊誌を拾い続けている。結局、カズオさんのように有益な情報には出会っていないが、いつか出会う日が来ると思うと、やめることができないのだ。