お菓子と毛布

 『お菓子と毛布』の第7号を買ってきた。
 『お菓子と毛布』はおそらく『音楽と人』からインスパイアされたと思われる雑誌で、人間が苦悩する時期にすがりつくのが、お菓子と毛布であるということから創刊された雑誌のようだ。クラスの女子たちがやたらとこの雑誌について話しているのを聞いていたから、なんとなく気にはなっていた。ただ、男としてはお菓子と毛布というのは、あまり大声で好きだと言えるものではない。アルバイトで隣町に行ったとき、クラスメイトに目撃される恐れがないだろうと思って頑張って買ってきたわけだ。
 巻頭グラビアには、新作のお菓子と毛布のおとなしい写真が踊っていた。読者層のターゲットが女子だからかもしれないが、メルヘンチックで乙女チックな柄が多く、その辺りはパラパラと飛ばした。そんな中、男の自分でも気になるような毛布の写真が目に飛び込んできた。その柄はお城と剣をあしらったもので、自分が城マニアであるという事実を差し置いてでも、カッコいいなと思わせるような代物だった。商品の紹介を見ていると、「この作者の幸田裕樹さんのインタビューは67ページに掲載!」と書かれていたので、67ページに飛んでみる。幸田氏は毛布職人としてデンマークフィンランドなどで人気を集めており、向こうでは何度も展示会を行っているという。日本の毛布シーンは北欧に比べて遅れていることを実感した幸田氏は、住んでいたドイツの家を引き払い、これからの日本の毛布を啓蒙するために帰国したのだという。幸田氏の話を聞いていると、まるで自分が温かい毛布に包まれているような気持ちになった。話の面白いミュージシャンのインタビューを読んでいると、自分がアルバムを聴いているような感覚を覚える。あれに似ていると言えばよいだろうか。
 結局、お菓子の記事のほうには自分の心をとらえるものはなかった。ただ、幸田氏のインタビューだけは強く印象に残った。決めた。来月もこの雑誌を買うことにしよう。ただクラスメイトの男たちは、こういった女性的文化に対する偏見が根強いので、なかなか勧めることはできなそうだ。しばらく時代が変わるまでは、隣町の本屋で買いながらコソコソと読むことにしよう。ちょっと寂しい気もするが、からかわれないためには仕方ない。