徳永くんの杜撰なおもちゃ管理

 僕のいる保育園は変わった政策をとることで知られている。自分の家にあるおもちゃは全て保育園に持っていかなくてはならず、その管理を園児たちで代わりばんこで日替わり担当するのだ。つまり、担当となった園児は、自宅におもちゃを持ち帰り、それを一晩管理してから翌朝再び保育園に持ってくるというもの。週末の担当になった園児は、金曜日に持って帰って月曜日に持ってくればいいから3泊分も遊べてお得である。
 なぜうちの保育園でこのようなことが行われるかと言うと、園児たちに公共の意識というものを身につけてほしいかららしい。人のものを預かり、管理する癖をつけることで、公共のものも自分のもののように大切にするであろうという理由からなのだそうだ。
 僕は別にこの方針は間違っていないと思うし、たまにみんなのおもちゃを独り占めできることは楽しい。だが、ひとつだけ不満に思っていることがある。それは、徳永くんの管理の杜撰さだ。徳永くんは毎回おもちゃを持ち帰るごとに、壊してしまったり、失くしてしまったりと、何かしら問題を起こす。僕もせっかく新しく買ってもらったおもちゃを壊されたときは泣いた。まだ自分もろくに遊んでいないと言うのに。
 徳永くんの困ったところは、とにかく言い訳がうまく、何でも自分を正当化してしまうことだ。
「たまたま想定外の事態が起こり、おもちゃが勝手に壊れてしまった。きわめて遺憾な事態であるが、おもちゃについては厳重に管理をしてきたため、私に落ち度はない」
「1000年に1度の偶然が重なり、私が目を離したすきに、おもちゃが勝手にどこかへ行ってしまった。このような事象が予測不可能であり、従って私に落ち度はない」などなど。
 しかもこのように、園児らしくない大人っぽい単語を使うわけだから、聞いている園児たちはチンプンカンプンである。いつの間にか丸め込まれ、徳永くんの言っていることが正しいのではないかと思ってしまうようになる。それは保育士さんたちも一緒なのか、なぜか徳永くんの過失に関しては何も言わない。僕がみどりちゃんの人形に傷をつけてしまった時はあんなに怒られたと言うのに。
僕は一度、保育士さんたちが廊下で話しているのを聞いたことがある。
「徳永くんのおもちゃ管理は杜撰だけど、徳永さんの家がお金持ちで、うちの保育園に多大な献金をしてくれているから何も言えないのよ」
 僕には献金という意味がわからなかったが、おそらく徳永くんは何をしても許される環境にいるのだと思う。
 その証拠に、徳永くんは昨晩おもちゃ管理を担当しており、今朝保育園に持ってきたときのおもちゃの状態があまりにひどかったこともあり、僕はこう言ってやった。
「徳永くんのおもちゃ管理は、他の人に比べて、あまりにひとすぎませんか? 園児のみんな、どうして何も言わないの?」
 すると僕は保育士さんに別室に連れていかれ、「ああいうことを言うもんじゃない。みんなが黙っているんだから、あなたも同じように黙っていればいいの」と怒られた。僕はなぜ保育士さんがこんなことを言うのかわからなかったが、徳永くんを名指しで注意するのはこの保育園ではタブーなんだと言うことを直感で感じ、それ以来何も言わなくなった。