脱・アンチ洋楽体験記

 私はアンチ洋楽なのにフジロックに毎年欠かさず行くという非常に稀有な存在だ。これまで同じような行動を取っている人は見たことがない。なぜこんなことになったのかというと、何年か前に友人に無理やり誘われてフジロックに来たことがきっかけだった。確かその年は山崎まさよしが出演しており、私は彼のことが大好きだったから行ってもいいかと思い彼らに同行した。すると、音楽なんて全然詳しくない私が、フジロックってなんて楽しいんだ!と虜になってしまったのだ。
 しかし問題は私がアンチ洋楽であることだ。私はもともと外国人の容姿が好きではないし、外国にも全く興味がない。映画も洋画は絶対に観ないし、これまでも外国人の友人を作らないように一生懸命努力してきた。これは親からの影響もある。うちの親は洋楽を聴くと呪われると言い、家では絶対に日本語の音楽しかかけなかった。小さい頃に外国語の歌を聴いてこなかったからか、私の脳神経には洋楽を受け入れる抗体のようなものが作られなかったのだろう。たとえばコンビニで洋楽がかかっていたりすると気分が悪くなるし、ずっと片想いをしていた男の人からドライブに誘われたときも、彼が車の中で洋楽の曲をかけたことで百年の恋も一気に冷めた。そんなアンチ洋楽ぶりだったから、私はフジロックに行っても極力洋楽の曲が頭に入らないように耳栓をしている。少しでも耳に入ると、高揚しているお祭り気分が一瞬で萎えてしまうからだ。一緒に来ている友人は、最初フジロックに来ているときは洋楽を観ろ観ろと勧めてきたが、今ではもう何も言わない。私のアンチ洋楽がどこまで徹底しているかを知っているからだ。今回も私は綿密にタイムテーブルをチェックし、日本人アーティストだけを見ることができるように動いた。その計画は完璧のはずだったのだが…。
 グリーンステージでスカパラを観て、そのままゆっくりとレッドマーキー80kidzに行こうとしたところで、何者かに拉致された。目隠しをされ、耳栓をされ、猿ぐつわをハメられ、手足を縛られた。身動きができなくなり、そのまま複数の人間から身体を持ち上げられ、どこかへ運ばれていった。
 身体を地面に降ろされ、目隠しと耳栓と猿ぐつわを取られた。何すると、目の前には総勢を20人ものメンバーを擁するバンドがステージで演奏していた。これは日本の音楽ではないと悟り、すぐに逃げないと気持ち悪くなってしまうと思った。しかし、自分の身体がそれを許さなかった。気持ちいいのだ。こんな体験は初めてだった。ドコドコとループするリズムに全身が反応し、私は踊り狂った。途中で何語かわからないような歌詞が乗ったがそれも全然気にならず、終演まで1時間半ほど踊り続けた。パフォーマンスが終わり、バンドがステージを去ると我に返った。あたりを見渡すと、友人たちがニコニコと笑いながら取り囲んでいた。友人たちが言うには、この作戦は2ヶ月前くらいから計画していたらしい。私を脱・アンチ洋楽にさせるために最適なアクトは誰かということをみんなで議論し、最も適していると思われたのがこのコンゴトロニクスvsロッカーズだったというわけだ。
 友人たちの思惑は見事に成功し、私はこの奇跡のような体験を経て脱・アンチ洋楽を成し遂げることができた。その後、朝までレッドマーキーで踊り、翌日もコーナーショップやティナリウェンなどの舶来のアーティストに狂喜したのは言うまでもない。