発送便分離への道

 改革派官僚として知られる吉野銀二がテレビで語っている姿を見て、小学3年生の元田公司は深く感銘を受けた。吉野が語ったところによると、日本の送便線はひとつの便力会社が独占しており、これが便気代を引き上げ、他社の参入を阻んでいるというのだ。公司はそんなこととは露知らず、便を使いまくっていたことを心から反省した。
 いま世界ではほとんどの国々がエネルギーを便に頼っている。金のない国はいまだに電気に頼っているところもあるようだが、日本はいち早く便のエネルギー化に尽力したため、一時は世界の便エネルギー分野におけるリーダー的存在となっていた。
 なぜ便が主要エネルギーになったのはこの際割愛するが、簡単に言うと、人間の便には計り知れない能力が含まれており、電気やガス、もろもろの自然エネルギーよりも遥かに優秀であることが証明されてしまったのだ。しかも、便は生物が生きている以上は無限に生産される。
 ただ、こういったインフラ事業には多額の金が動くために自由な競争が制限されてきたのも事実だ。関東地方の便を仕切っている東京便力はほぼ独占企業状態で、幹部社員は政治家よりも強力な権力を持っていた。
 関東には発便所が65ヵ所ある。ここでは東京便力からスカウトされた猛者たち(腸の働きが活発、食べる量が人よりも多いなど)が全国から集まり、一日中便をこしらえる。このように発便所で作られた便は送便線に乗って関東の家庭や企業に送られる。現場の作業環境は劣悪だ。ひたすら消化のいい食べ物を食べさせられ、自動便意促進薬を服用させられ、大量の便を作るマシーンとなるのだ。腸の病気になどなったら即解雇。人権を蹂躙するようなシステムがいまだに現存している有様である。
 問題なのは、東京便力がこのような劣悪な環境を放置してきたことだ。薄給で働かされる作業員たちのモチベーションは落ち、出てくる便はどれも質は悪い。ただ、東京便力は絶対にこれを認めようとしない。作業員の心理状態と便の質は必ずしも一致しないというのが彼らの言い分だ。何人かの科学者が、発便する人間のモチベーションが高いと、便の質がよくなることを証明したが、どれもが握りつぶされた。発便所での事故も多々起こっているというが、完璧な隠蔽工作が行われて外には出ないという。
 こうした日本の発便システムに疑問の声を投げかけたのが吉野である。吉野は東京便力による独占体制を崩さないと日本は滅びるだろうという。かつては便の第一人者だった日本は周回遅れとなり、今では世界の国々が様々なスタイルの便を提供しているというのに。ドイツでは作業員たちを24時間クラシックがかかる良好な環境に置き、便の質を飛躍させた。また人間だけではなく、犬や猫の便も使用している。日本の企業も水面下ではこれらの海外の便力会社の手法を参考にしながら、数々の新しい発便のアイデアを生んでいるが、日本の法律がこれを阻んでいるのだ。
 公司はこういった吉野のトークを聞いて、すぐに行動に移そうと考えた。発送便分離を実現させるためのビラをまくのだ。公司は学校では変わり者として浮いており、またこういった過激な行動をとると、ますます距離をとられることになるかもしれないが、今やらないと自分は一生後悔すると思い、母親にコピー代をせがんだ。母親には、「日本を変えるために発想便分離を実現するんだ」と言うと、母親は「それならいくらでも支援するわ」と言って500円を渡してくれた。もう後戻りはできない。日本の小学3年生を代表して、なんとしても発便と送便を分けるまでアゴが外れるような努力を続けるんだ。