会話するコンビニ店員

 職場の近くのコンビニに、ひとりおかしな店員がいる。この店員はレジ打ちの時に客と必ずと言っていいほど会話をするのだ。こないだなんか、俺がパンを買ったのを見て「今日はお弁当じゃないんですね。そのパンおいしいですよ」と言ってきやがった。俺はコンビニ店員とは「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」以外の言葉はかけるべきではないと思っている人間だから、この店員に腹が立って仕方がない。そして今日、ついにそのコンビニ店員にその旨を注意してしまった。
 店員は今日もまた「すごい雨ですね。台風来てますからね。電車大丈夫ですか? 何線ですか?」と話しかけてきた。いつものように無視をしようと思ったが、この先毎回話しかけられるのが耐えられないので、俺は自分の思いをぶちまけた。
「君ねえ、コンビニ店員だったらコンビニ店員らしくしてなさいよ。他のコンビニに行ってごらんよ。どこに君のように私的な会話をする店員がいる? コンビニの店員ってものはマニュアル通りに働いてこそ、客を心地よくするものだ。僕は仕事上、部下もたくさんいるが、君みたいな人間がいたら使いにくくて仕方ないよ。日本という国はね、マニュアル通りに動くことができたからこそ、ここまで発展してきたんだ。君みたいな、マニュアルを逸脱した行動をやっている人間ばかりだと、社会は混乱して収拾がつかなくなるだろう。君、僕の言っていることわかるかな」
 そこまで相手はすごく申し訳なさそうな顔をして聞いていた。僕は続ける。
「そもそも君の上司が悪いんだと思う。教育ができていないんだな。店長はいるかね。僕がしっかりクレームをつけてやるから、呼んできなさい」
「はい、わかりました」店員がバックヤードに内線をかけ、奥からくだびれた30代の男が出てきた。こんなくたびれたルックスの男が店長なら、この店の風紀が乱れることにも納得がいく。
「なんでしょうか」店長ののんびりした言い方が気に食わなかったので、俺の語気は少し荒くなった。
「なんでしょうか、じゃないだろ。おまえのところのスタッフの教育はどうなってるんだ。こいつの勤務態度を見たことがあるのか。客に話しかけてくるんだぞ。それもマニュアルにはありえないような私的な話題ばかりだ。こんな公私混同しているアルバイトに給料を払うだなんて、全く常識外れもいいところだね。何を黙っているんだ。少しは何か言ったらどうなんだ」
「すいません」
「謝罪はいいからさ。どういった方針でスタッフを教育してきたかって聞いているんだよ」
「その辺は正直、あまり気にしてませんでした。思い至らなかったとでも言いましょうか。お客様の気持ちを不快にさせたのであれば、深くお詫び申し上げます」
「だから謝罪はいいからさ。とにかく教育をしっかりやってくれ、以上!」
 俺はそう言って店を出た。帰り際に店の中を振り返ると、店長が厳しい表情で店員を叱っているのが見えた。これであの失礼な店員も常識を学んでまっとうな社会人の仲間入りを果たし、立派な接客ができるようになるだろう。俺は適切な教育ができたことに満足し、「いいことをした後は気持ちがいいものだ」と呟きながら菓子パンを頬張った。