とんかつバット

 今、バッティングセンターで妙な遊びが流行っているのをご存知だろうか。とんかつバットという名づけられたその遊びは、ヒポポタマゴという三流芸人があるお笑い番組の中でやった芸のことである。ヒポポタマゴはスーパーのお惣菜売り場で買ったとんかつを持ってバッティングセンターに行き、そのとんかつでボールを打った。すると、とんかつはありえない破壊力で飛び散り、ヒポポタマゴは「気持ちいい! マジこれ気持ちいい!」と絶叫。その模様をネットで実況していた面々が「これはリアルに気持ちよさそうだぞwww」と騒ぎ、翌日からとんかつバットを試したい輩がとんかつを買ってバッティングセンターに殺到したというわけだ。
 かく言う筆者も、流行には乗り遅れてはいけないと思い、一度ならずとも二度三度試してみた。やってみて思ったのは、読者の皆様は勘違いされているかもしれないが、そもそもとんかつをボールに当てるのが難しいということだ。とんかつは通常20cmくらいの長さしかないため、このスペースにボールを当てるのは技術を伴う。下手すると、自分の手に当たってしまい、痛い思いをすることになる。そこで10球、20球と空振りを繰り返し、やっととんかつに当たったときの気持ちよさを言ったら! しかもその気持ちよさを味わった瞬間には、とんかつは見事なまでに粉砕して飛び散り、跡形もなくなっている。なんとも無常観の溢れる遊びではないだろうか。
 このとんかつバットの流行に対し、全国のPTAからは苦情が殺到した。食べ物を粗末にすることはまず許される行為ではない。しかも、とんかつ1枚が約200円だとして、お母さんの財布から何千円もくすねて、とんかつを何十枚と買う小学生たちが増えているというのだから驚きだ。しかもバッティングセンターで1ゲームをするのにもお金がかかる。親としては出費もかさむし、お行儀が悪いしで、全くいいことはないのである。しかも今夜はとんかつにしましょうかとスーパーに行ってもとんかつは売り切れ。これではせっかくの夕食の献立プランも台無しだ。まさにとんかつバットは主婦の敵と言っていいのである。
 しかしながらスーパーとバッティングセンターはとんかつバットの流行に対して、何の声明も発表していない。スーパーはとんかつの売り上げが上がってホクホクであるし、バッティングセンターも散らばったとんかつの掃除は大変ではあるが、いまだかつてないほどの客が押し寄せてブームが到来していることに関しては大歓迎なのである。
 筆者の意見としては、道徳的には食べ物を粗末にするのは絶対によくないとは思うが、子供たちがあそこまで夢中になってしまっている以上、なかなかこのブームを止めるのは難しいのではないかと思うのである。あなたならどう思うだろうか?