ザ・斜面 胸についているその山は何だ

 2012年と2013年を境に世界は変わってしまった。2013年になると、見たこともない格好をした生き物が町中にあふれ出した。彼らの名前は33世紀警察。人類はようやく33世紀にタイムマシンを発明し、警察に人間たちが21世紀の暮らしぶりをチェックしに来たわけだ。そして21世紀のサンプルとして選ばれたのが2013年だった。
 なぜ33世紀警察がそんな大昔のことを調べに来たのかというと、暇だからだ。33世紀の日本は治安がよすぎるため警察の仕事が全くない。そこで国は、税金の無駄遣いをしておくのももったいないため、タイムマシンができたのをいいことに、過去の調査をさせることになった。
 33世紀の人間はミミズとよく似ている。テクノロジーが進化して、運動もしなくなり、手とか足とかあらゆる突起が退化した結果、このようなフォルムに落ち着いたというわけだ。
 ただ、未来の人間は過去の人間よりも偉いという風潮はあるようで、彼らはすこぶる偉そうだった。新橋の駅前でサラリーマンたちを止めて、持ち物チェックなどをした。21世紀人たちは反撃をしたかったが、彼らの持つ武器ニョロリンがあまりに破壊力がありすぎて歯向かうことができなかったのだ。
 そんな33世紀警察がやけにこだわったものがある。それは女性の胸だ。なぜそこまでこだわったのか理由はわからない。なぜなら33世紀には男女の性別が消滅しており、男が女性の胸に興味を持つという類の感情を持つことはありえない。それなのに彼らは女性を止めては「その斜面は何だ」と聞いて、角度を分度器で一生懸命測ろうとした。彼らは女性の胸を「山」とか「斜面」とかと呼んだ。33世紀に戻ってレポートを提出すると、とにかくもっとこの斜面についてのことを知りたいという者が多く、科学者たちが研究をしにやってきた。その調査結果をまとめた文献は数多く33世紀で出版され、そのどれもがベストセラーになったようだ。興味を持った講談社の編集者が、33世紀で一番売れたという本『ザ・斜面 胸についているその山は何だ』を21世紀の言葉に翻訳したものを出版したが、斜面の角度についてえんえんと解説がされており、21世紀の人間は誰もその面白さがわからなかった。